スウェーデンが発祥で、今ではヨーロッパや北米だけでなく、アジアやオセアニアなど世界各地に出店している世界最大の家具量販店「イケア」…
その「イケア」創業者のイングヴァル・カンプラード氏は、スタッフに向かって話をするとき、「親愛なるイケアファミリーのみなさん」と前置きします。
またイケアでは、世界各国から出張してくる他の店舗のスタッフを手厚くもてなすのが慣例…
これは「世界中に広がっているのは家族」だからです。
さらに言うと、客が加入するファンクラブの名前は「イケアファミリー」…
以上のことからもわかるように、イケアは「ファミリー」という概念を非常に大切にしているのです。
では、一体これはなぜなのでしょうか?…
それをひも解くには多少時間を遡(さかの)る必要があるのです。
ある時期を境に、カンプラード氏曰く「イケアは『真の意味で』企業となった」が、ここから先はそれ以前の話なのです。
商人の血筋に生まれたカンプラード氏…
その血が早くも騒いだか、大箱のマッチを小分けにして販売し、わずかな儲けを得るという商売を始めます。
遊びの延長でその後も商売を続けていたが17歳のとき…
優秀な成績のご褒美に父親からもらったお金で自ら会社を設立しました。
それが「イケア」だったのです。
最初は万年筆など小物の通信販売を行っていたといいます。
カンプラード氏が家具販売業に参入したのはほんの思いつきでした。
ライバル会社が家具を扱っているのを見て、単純に真似してみようと思ったのです。
結果的にはこれが功を奏し、会社は順調に売り上げを伸ばします。
しかし、ライバル会社との価格競争が激しくなり、「低価格・低品質」路線をとらざるを得なくなると、苦情が殺到するようになりました。
通信販売で実際の商品を確認できないことも客の不満に拍車をかけ、会社は存亡の危機に立たされたのです。
何とかこの状況を脱しようと、カンプラード氏は家具のショールームを思いつきます。
自分の目で商品を見てもらえば、他社の家具と品質を比較してもらうことができ、高くても買ってもらえるのではないかと考えたのです。
現在、イケアでオンライン販売を行っていない理由はここにあります…
客に店まで足を運んでもらい、商品の品質を実際に確かめて欲しいのです。
また、店舗にあるルームセットを見て、客にインテリアのインスピレーションを得て欲しいという理由もありました。
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ともかく、イケアはインテリアショップとしてスタート…
カンプラード氏は当時の古きよき時代の思い出をとても慈(いつく)しんでいるといいます。
従業員全員がお互いのことを知っており、皆が同じ方向に向いていた時代…
カンプラードは「結束」「助け合いの精神」「忠実であること」「質素な生活」などのモットーを掲げましたが、その「イケア精神」に異を唱えるものはもちろん誰もいません。
出張先では従業員と安ホテルの同じ部屋に宿泊し、夜が明けるまで人生について語りありました。
しかし会社が大きくなるにつれて、多少なりとも社風が変わっていくのは当然のことでした。
ところがカンプラード氏は、創業当時の家族のような共同体がずっと維持できると信じていたのです。
従業員との親密な関係が薄まり、大企業ならではの疎遠な関係になるのは、彼にとって堪えがたい苦痛だったのです。
象徴的なエピソードが、従業員から労働組合を組織することを相談されたときのカンプラード氏の発言です。
困り顔で「イケアのこれまで進めてきたやり方に全然そぐわないよ」と答えたのです。
カンプラード氏が現在に至るまで、ファミリーを強調するのはこのような経緯があるからです。
恒例のクリスマスパーティのスピーチでは「企業は常に変化を遂げていかなければならない」と、まるで自分に言い聞かせるように言っていますが、イケアが世界的大企業であることに、未だに折り合いがついてないのかもしれません。
1943年の創業からはや70年…
従業員数139,000(2012年)、同社が世界38か国に展開する世界一のインテリアショップにまで成長したのは、創業時の理念があったからに他なりません。
それはときに従業員の行動の指針となり、ときに客のイケアブランドに対する誇りとなったのです。
時代とともに形を変えつつも、この理念は現在に至るまで確実に受け継がれているのです。
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