ディルバートの法則…無能な人を管理職へ昇進させる理由とは?

「ディルバートの法則」は、「ピーターの法則」を一層発展させたバリエーションです。
「ビーターの法則」では、「誰もが、各自の能力に見合う地位までは昇進できる」とし、人が能力に応じて昇進することを前提としていました。

それに対し、「ディルバートの法則」では、その前提を覆し、「企業は、事業への損害を最小限に食いとめるために、無能な人を管理職へ昇進させる」としているのです。
すなわち、企業では、むしろ無能な人間を管理職、特に中間管理職に昇進させるというものです。

経営者が、何ら実績を上げていない者を、わざわざ管理職の地位に昇格させる目的は、無能な社員が生産性向上を試みる従業員に、横から口を出して邪魔をしたり、取引先との折衝や社内の人間関係で、いらぬトラブルを起こすことで、スムーズな会社運営が阻害されるのを防ぐためだとしています。

事実、大企業の管理者の多くは、生産性の高い仕事に直接関与することが少なくなり、実質的な生産活動は平社員が行なっているので、無能な人間は平社員の邪魔にならないような管理職に祭り上げるべきだと考えるのです。

ディルバートは、学者でも評論家でもなく、実はアメリカの有名な連載漫画のキャラクターなのです。

彼(ディルバート)はMIT(マサチューセッツ工科大学)出身の優秀なエンジニアで、情報産業関連の企業に勤めており、物語はそこが舞台になっています。
彼を中心に展開するユーモラスなストーリーが、後に多くの「ディルバートの法則」となって、広く引用されているのです。

ディルバートの作者は、1957年生まれのアメリカ人、スコット・アダムズという人物です。
彼は大手銀行やテレコム会社で、長らくサラリーマンの経験を積んでいましたが、職場内で起こる様々な出来事の原因が人々の無能さにあると気づき、この漫画を描こうと思い立ちました。

さらにアダムズ氏の創作意欲を湧かせたのは、多くの人から彼のもとに寄せられた、次のような企業内でのバカげた体験からです。

(A)電池で稼働する製品を開発する際、副社長が電池切れを示すライトをつけることにこだわった。
(B)部長が部下に対し、ソフトウェアの欠陥をなくすため、欠陥を見つけたら1件につき20ドル、それを修理したら、さらに20ドルの報奨金を出すと提案した。すると、そのような欠陥がたちまち多く現れては修理され、ある従業員は1週間で1700ドルも稼いだので、部長はその計画を取り止めにした。
(C)ある企業で、出張中に使えるようにと、ノートブック・パソコンを従業員に支給したが、そこの経営者は盗難を恐れるあまり、そのノートブック・パソコンを社員の机に固定した。
(D)ある経営者は、会社が設定した7つの業績目標のうち、5つを達成したらボーナスを支給すると約束した。ところが、支給予定の年末になると、経営者は、7つの目標のうち4つしか達成していないから、ボーナスは支給できないと通告した。達成されなかった目標の1つは「従業員の士気」で、それが欠如しているとされたのだ。

このように企業で実際に起きている出来事から、アダムズ氏は、「人はみんな大バカである」との結論に達しました。
ところが、自分もその1人であることを認め、それを誇りにさえ思っているのです。

彼は、どんな人でも、いつも間違わないようにするのは至難の業だといいます。
大バカであるのは何も知能指数が低いからではなく、たまたま慣れぬことを、今までと違う状況で行なったからに過ぎず、間違いは誰でも犯すものである…としているのです。

その実例として、自ら犯した失敗例を取り上げています。
彼はポケット・ベルの電池を入れ替えたが作動しないので、故障かと思い修理センターに持って行きました。
修理担当者がカバーを上げて、中の電池のプラスとマイナスを逆に置いた途端に動き出したため、彼は衆人の前で大恥をかいたといいます。

そんな彼だが、その後、自動車の故障を疑い、自ら運転して修理工場に持ち込んだ際には、故障箇所を的確に指摘して修理させたこともありました。
人は状況によって、愚行を犯すものだというのです。

漫画の中の職場には、経営能力のないボスや間抜けな経理課長、それに仕事嫌いな技術主任などと風変わりな人物が登場し、彼らの無能ぶりと、社内での間抜けなやり取りが揶揄されています。

それはバカげた言動に見えるかもしれませんが、意外にも現実に当てはまるケースが多いのか、多数の読者から「それはわが社と同じではないか」との大きな反響を呼んでいるのです。




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たとえばアダムズ氏は、世の中は大バカ者が多いとした上で、その例として、経済学をやり取りする社員同士の会話を漫画の中で紹介しています。

社員「連邦準備制度理事会が、金融緩和を行ない、お金を増発したというけれど、僕の銀行口座の残高を調べたら、前と同じで少しも増えてないよ」
同僚「それは不公平だね!」

一見、間抜けな会話を交わしているようだが、金融緩和の矛盾を鋭く突いているのです。
アメリカの連邦準備制度理事会は中央銀行に相当し、不況対策として、日本でも見られるような大幅な金融緩和を行なっています。
しかし、誰でも不思議に思うのは、そのようにお金が増発されているにもかかわらず、私たち庶民の懐(ふところ)を直接潤していないことなのです。

かつて経済学で、「トリクルダウン(徐々に流れ落ちる)理論」というのが流行ったことがありました。
これはレーガン大統領(当時)がとった経済政策で、「政府の金を大企業や富裕層に多く配分すれば、それが低所得層に徐々に流れ落ちる」とされていたものです。

しかし、富は低所得層の利益にはつながらず、その効果は上がりませんでした。
アダムズ氏は、この理論を皮肉っているのです。

アダムズ氏が1989年にこの漫画の連載を始めた頃は、世間から、企業内部の実態を皮肉った風刺としか見られていませんでした。
けれども後に「ディルバートの法則」の意味する意図や知恵が、高く評価されるようになったのは、大手企業の管理者が日常の出来事に疎
くなり、現実離れした事例が増え始めたこと…
そして企業が、不平を持つ顧客や社員をなだめるため、無能な人物を意図的に昇進させる方策を、実際にとっていたからなのです。




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