マーケティングを顧客のニーズに応えるための活動であると考える限り、市民や国民、あるいはもっと他の困っている人々を顧客として捉え、彼らの必要に応えようとするマーケティングがあり得ることは当然のことです。
営利組織の活動として始まったマーケティングではありますが、今では、より広い分野において利用可能だと考えられるようになっています。
非営利組織のマーケティングもその1つです。
もちろん、注意しなければならない点もいくつかあります。
以前にサービス・マーケティングという考え方を紹介しましたが、サービス・マーケティングでは、基本的なマーケティング活動の要素となるPの数や内容が変わっていました。
同様に、非営利組織のマーケティングを考えるにあたっても、何かしらの修正が必要になる可能性はあります。
非営利組織のマーケティングを考えるにあたって、まず注意しなければならないのは、最初の出発点である顧客のニーズです。
例えば、行政組織という典型的な非営利型の組織を考えてみましょう。
行政組織にとって顧客とは、おそらくそこで生活している市民や国民ということになるはずです。
では、市民や国民が持っているニーズとは何でしょうか?…
平和、安全、あるいは幸せ、様々考えることはできそうですが、いずれもニーズとしてはあまりに漠然としていてとりとめがありません。
これらのニーズは、例えばパソコンを買ったり、レストランに食事に行ったりする際のニーズとは少し異なっているように見えます。
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有名な経営学者であるヘンリー・ミンツバーグは、行政組織にとっての顧客を大きく4つの側面から捉えています。
彼によれば、行政組織にとって、私たちは単なる顧客(Customer)ではありません。
まずもって市民(Citizen)であり、依頼人(Client)であり、主権者(Subject)であるというのです。
彼の主張は、これまで私たちが考えてきた顧客のニーズという視点について、特に行政組織をはじめとする非営利組織においては、もう少し広く考える必要があるということを示しています。
顧客である前に市民である私たちは、行政とともに問題解決を目指す親密な依頼人としての関係を持っているとともに、ときに私たちは、主権者として行政の活動に責任を持ち、自らが行政や彼らの目指す目標実現のために一役買わねばならないこともあります。
一方でもちろん、行政にとって顧客でもある私たちは、営利企業からパソコンや食材を購入するように、サービスを提供する側と提供される側という関係も有しています。
マーケティングの出発点が顧客のニーズに応えることである限り、非営利組織のマーケティングは可能であるとともに限定的であることになります。
特に、市民が主権者であるということを考えるのならば、非営利組織のマーケティングはもっと別の何かを目的としなくてはならないということになるでしょう。
例えば、ともに生きる未来をビジョンとして共有するといったふうに…
非営利組織のマーケティングを考えるためには、営利組織の場合よりも曖昧なニーズを捉える視点が必要です。
この視点は、近年、営利組織のマーケティング活動でも強調されるようになっている関係性の維持·構築を考えることにつながっています。
それは、協業活動を中心とした新しいマーケティングでもあります。
関係性の維持・構築にあたって最も重要になるのは、お互いの信頼関係です。
社会保険や税金がわかりやすいでしょう。
その利用方法がはっきりとしておらず、あるいはその支払いに応じた対価が見えていなくとも、その支払いを認めることができるのだとすれば、それは相互に信頼関係があるからといぅことになります。
逆に、今日の社会保険の問題などは、行政と市民の間の信頼関係が弱まっているということに理由があります。
本来的に、50年後や100年後といった未来を見据えるべき国家戦略において、今日私たちが支払った税金が私たち自身のために還元されることはそうそうあり得ないはずなのです。
顧客のニーズに応えることがマーケティングであるとするのならば、非営利組織においては、当の顧客とは誰のことであるのか、そして、その顧客の必要に応えるということはどういうことなのかを、考え直す必要があります。
これは、短期的な視点ではなく、長期的な視点のもとでマーケティングを実施しようということでもあります。
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