BtoB(企業間取引)におけるSTPの重要性について考える

BtoB(企業間取引)で原材料や部品など生産のために使われる産業財を取引する場合、産業財マーケティングやビジネス·マーケティングといった独自の領域を考える必要があります。
一般的に、普通のマーケティングに比べると、産業財マーケティングの場合は売り手と買い手の間にいくつかの特徴があります。

例えば、取引の継続性を指摘することができます。
消費財の場合、昨日はサントリーの「伊右衛門」を飲んだから、今日はキリンの「生茶」にしよう…
明後日は伊藤園の「お~いお茶」か新製品を買ってみよう…
ということが日常的に起こり得ます。

しかし、産業財の場合、昨日はあそこから鉄板を1億円買ったから、今日はこっちの企業から鉄板を買おう…
という話にはなかなかなりそうもありません。
1度取引を始めると、例えば1年というスパンで、あるいはもっと継続的に取引が続くことになります。

取引の継続性は、そもそも取引相手の数がそれほど多くない…
ということに関係しています。

消費財の場合は、メーカーの数もそれなりにありますし、顧客である消費者の数はそれこそ膨大です。
これに対して、産業財の場合、鉄板を作っている企業と自動車を作っている企業取引を考えると、取引相手の数は圧倒的に少なくなります。

さらに、産業財メーカーはお互いの規模が大きく、取引規模も大きいので、細かい検討事項や契約関係など、1度の取引に際して大きな時間や労力が必要になります。
その日の気分で購入するものを変えるというわけにはいきません。
ここでも、取引が継続的になっていきます。

このような特徴を考えると、BtoBにおけるSTPは、これまでの話とまったく同じ、というわけではなくなりそうです。
まず、セグメントやターゲットは、そもそもプレイヤーの数が少ないわけですから、とても限られていそうです。

一方で、ポジショニングの方はどうでしょうか?…
競争相手も限られていますから、あまり新しいポジションをとる必要もないかもしれません。

とはいえ、ではSTPはいらないのかといえば、そうではないと思います。
むしろ、先に見てきたような画期的なセグメンテーションや新しいポジションをとるという選択は、BtoBを主にする企業にとっても大事な意味を持つはずです。




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かつて日本の鉄鋼メーカーは、制振鋼板という防音性に優れた鉄板の開発を進めていました。
画期的な製品であり、自動車への利用が期待されていたのですが、当初は技術的にもまだまだ課題が残っており、残念ながら自動車への利用は難しい状況でした。

当然、鉄鋼メーカーにとって、自動車メーカーは大事な主要顧客です。
彼らのニーズに応えるべく開発されてきた製品でしたが、技術的にもう少し時間が必要だったわけです。

そこで鉄鋼メーカーは考えました。
確かに、自動車メーカーの期待に応えられるほど、制振鋼板は完成されているわけではない…
完成にはもう少し時間がかかる…
かといって、まったく利用価値がないということもできないはずだ…
きっと、現在の技術水準でも必要としてくれる顧客がどこかにいるはずだ、と。

鉄鋼メーカーが見つけたのは、家電メーカーが生産していた洗濯機です。
当時の洗濯機は、非常に大きな音を出すものが当たり前でした。
夜に洗濯をすると、近所迷惑になってしまうこともしばしばでした。

そこで、鉄鋼メーカーは家電メーカーに制振鋼板を提案し、その結果、騒音が抑えられた新製品が次々と登場することになります。
私たち消費者としても、うるさい洗濯機と静かな洗濯機といわれれば、静かな洗濯機の方を求めるでしょう。
制振鋼板は、私たち消費者にとっても、思いがけない画期的な素材だったのです。

こうして新しいセグメントが見つかったわけです。
新しい取引関係が生まれます。
ポジショニングについても、鉄板という素材が意味するところが変わってきます。

鉄板に求められる性能は、頑丈さや変形のしやすさ、しにくさなど様々考えられますが、これに新しく防音性という価値がつけ加えられることで、鉄鋼メーカーの競争相手も変わるかもしれません。

防音という機能を提供するものは、決して鉄鋼だけではないはずだからです。
こうして、産業財の典型ともいえる鉄鋼においても、マーケティングの発想が利用できることがわかります。




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