人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」が今後も順調に進化しつづけていけば、いずれ人工知能が人間の知能を超越するときがやってくるのは間違いないでしょう。
そして、そうなったとき、人工知能は「自らを改良する能力」を獲得し、指数関数的に進化をつづけることで人類を置き去りにしてしまう可能性があるのです。
なぜなら、人工知能が人間以上の知性を獲得した後にもすさまじいスピードで自己改良を続けるなら、人間はあっという間に人工知能が考えていることを理解できなくなってしまうからです。
このことは、科学技術がどのように進化していくのかという未来像を人類自身が全くイメージできなくなることを意味しています。
未来を予測したり思い描いたりできるのは人工知能だけで、人類はただ指をくわえて見ているしかなくなるのです。
この問題について、コンピュータ科学者のアラン・チューリングとともに初期のコンピュータの開発に携わったI・J・グッドは1965年の段階で以下のように述べています。
「どんな賢い人間をも超越するような超知的なマシンが生み出され、それがさらに知的なマシンを自ら設計していくとすれば、やがて人類は置いていかれ、最初に開発された超知的なマシンが人類にとって最後の発明品となる」と。
アメリカ合衆国の発明家・フューチャリストで、現在グーグルで人工知能の研究に当たっているレイ・カーツワイル氏は、このような人類を超える知性を備えた人工知能が生まれ、それが指数関数的に進化することによって、人類が未来を予測することができなくなってしまう限界点のことを、「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、シンギュラリティは2045年までには起きると予測しました。
この予測は、カーツワイル氏が提唱している「収穫加速の法則」を前提としています。
「収穫加速の法則」とは、科学技術は直線的に進化するのではなく、ある重要な発明が別の発明と結びつくことで指数関数的に進化するとした法則です。
カーツワイル氏は、この法則に従い、人間の脳の能力を数値化して計算すると、早くて2020年代前半、遅くとも2045年までにはシンギュラリティが起きると主張しているのです。
それでは、2045年に本当にシンギュラリティが起きてしまうとして、カーツワイル氏は、その後の世界はどのように様変わりすると予測しているのでしょうか?…
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カーツワイル氏は、シンギュラリティが起き、人工知能の性能が指数関数的に爆発的に進化し続けていくなら、人類が持っている生物学的知性と人工知能の知性を合わせた「人類文明の全知性」は現在よりも10億倍程度にまで膨れ上がることになるだろうと予測しています。
しかし、全知性が10億倍になると言っても、具体的にどのような生活が待ち受けているのでしょうか?…
実は、カーツワイル氏は「テクノロジーの進化によって最終的に人類は不老不死になる」という驚くべき未来像を描いているのです。
その理由はこうです。
まず、シンギュラリティが起きる前に人間は脳の機能を完全にスキャンすることができるようになり、自分の脳を別のロボットなどにインストールすることが可能になるといいます。
そして、ナノテクノロジーがこのまま進化していけば、いずれ超極小ロボットを身体に注入することで臓器の機能を代替させることができるようになるため、心臓を含めたあらゆる臓器が不要になります。
これだけでも私たちの寿命は飛躍的に延びることになるでしょう。
また、テクノロジーが進化していけば、クローン技術によって食糧を無尽蔵に生産できるようになったり、老化や肥満の心配をすることなく食事を取ることができたり、エネルギー問題も解決するようになるというのです。
そして、ゆくゆくは、人類が自らの知性を超越した人工知能と「融合」することで誰もが人間としての個性を持ちながらあらゆる問題を解決できる「超人類(ポストヒューマン)」となり、生物学的な限界をも超越して不老不死か、それに近い人生を獲得することができるようになるというのです。
ただし、これはあくまでも、人類が人工知能をコントロールして安全性を確保しながら開発することができた場合の話…
カーツワイル氏も、人工知能が諸刃の剣であり危険性がゼロなわけではないことを認めています。
果たしてシンギュラリティが起きた後、私たちを待ち受けている未来はどのようなものなのでしょうか。
人類が科学技術をコントロールし、機械と融合して不老不死を獲得するのか、それとも全人類が人工知能によって支配または駆逐されてしまうのか…
いずれにせよ、あと数十年で人類史における最大級の変革が起きそうなことは間違いなさそうです。
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