皆さんは、ビルのような建物の中で大量の作物を育てる「野菜工場」をご存知でしょうか?
光も水も温度も機械によって調節でき、密閉された空間なので、風雨などの天候を気にする必要もありません。
害虫もいない上に、土は使わず栄養は全て化学肥料ですが、完全な無農薬野菜ができるのです。
当然のことですが、自然は人間のためだけに存在しているのではありません。
虫や鳥、獣が食べるものの安全については、誰が考えるのでしょうか?…
土の中に棲む虫や、田畑を通った水が注ぐ海や川に棲む魚介類にとっての安全はどうしたらいいのでしょうか?…
いずれも従来の農業には欠かせない生態系です。
農薬をめぐるこの短い問いについて調べてみると、実に様々な立場の人々が、主張をぶつけ合っていることがよくわかります。
事情は極めて複雑なのです。
人間が農薬を与えなくても、病気や虫害を受けると、野菜は防御反応として体害虫や病原菌などからダメージを受けた野菜は防衛反応として天然農薬を体内に毒物を生成することがわかっています。
それが天然農薬あるいは農薬様物質(ファイトアレキシン)と呼ばれるもので、一部は人間への毒性も確認されています。
化学農薬にも毒性はありますが、その使用量や、収穫後の残留量には厳しい規制があって、生産者によってコントロールすることができます。
しかし、もちろん野菜には、人体に影響がないよう、自身の天薬の量を調節することなどできません。
農薬で作物にかかるストレスを軽減すれば、天然農薬の発生は抑えることができるのですが、消費者が「無農薬野菜」という「安全」や「ブランド」にこだわる限り、その需要に応えたい生産者は、使用をためらうに違いないでしょう。
そんな中、より食の安全に敏感な消費者は、いわゆる「有機野菜」を求める傾向にあります。
農林水産省によれば、「化学肥料と農薬を3年以上使用しない田畑で栽培したもの」で、「遺伝子組み換え技術を使用しないもの」が「有機農産物」と定義されます。
農林水産省は、化学肥料も農薬も安全基準を守って使用すれば、人体には影響がないという立場をとってはいますが、消費者のニーズに合わせて、有機農業に取り組む農家は徐々に増え、政府もそれを支援、推進するようになっています。
とはいえ、有機農業が行われているのは、国内の耕地面積のうち0.4%に過ぎず、農家のコストもかかるため、高価で少ない農産物であるのが現状なのです。
平成26年度の「食料・農業・農村白書」の中では、おおむね4年をかけて、有機農業実施面積の割合を0.4%から1%に拡大するという目標を掲げています。
ただ、有機農業には困難も多いのです。
例えば、病害虫が発生した場合、農家は狭い自耕作地内の作物は守れるかもしれませんが、害虫が他の田畑へ移動することまで防ぎきれるとは限りません。
また、化学肥料の代わりに用いられるたい肥などの有機肥料にも問題が指摘されています。
医薬品が投与された家畜の排せつ物に含まれる抗生物質や重金属などが、たい肥として土壌に混ざり、作物へどのような影響を及ぼすかわからないという面があるからです。
15年ほど前、輸入した牧草を食べた牛の糞をたい肥として使用したところ、栽培したトマトに生育障害が出たという事例が報告されました。
牧草に日本で使われていない除草剤が残留していたことが原因と見られています。
最近、発ガン性との関連が疑われている「硝酸性窒素」は、化学窒素肥料を使用した野菜に多く含まれる傾向にありますが、動物性の有機肥料にも窒素成分は含まれるといいます。
さらに、大腸菌やサルモネラ菌の検出は、有機農産物の方が多く、家畜の糞尿が不完全発酵の段階でたい肥として使用されるケースが問題になっています。
また、農林水産省が認定する「JAS」マークを使用できる農家にも31種類の使用が許される農薬があるのです。
つまり有機農産物「無農薬とは限らない」のも事実だということを覚えておきましょう。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。