ブランドにおける「デザイン」の意味とその役割について

ブランドという言葉が難しいように、「デザイン」という言葉も難しい言葉です。
マーケテイングという観点から考えた場合には、大きく2つの意味で捉えることができます。
名詞としてのデザインと動詞としてのデザインです。

名詞としてのデザインは、「美的な造形」を意味しています。
「iPhone」のデザインが優れているという場合、その意味するところは、まさに美的な造形への評価でしょう。

このとき、デザインとは、すでに与えられたモノ、特にフォルムやシェイプを意味しているといえます。
名詞としてのデザインを考える場合には、デザインの持つ美的感性や機能美といったものが議論の対象になります。

もう1つ、デザインには動詞としての意味があります。
すなわち、美しさをデザインするといった場合や、ビジネスプランをデザインするといった場合に用いられるデザインです。

このとき、デザインとは、1つの形を作り出すこと、主にメイキングを意味することになります。
この場合の動詞としてのデザインを考える際は、合理的な設計プロセスのようなものが議論の対象になります。

2つのデザインは相互に関係しあっています。
共通するのは、いずれも「形を与える」ということを議論しているという点です。
これこそが、デザインが意味する最も重要な点かもしれません。

形は、私たちが作り出すものですが、同時に、私たちの行動を規定するという特徴があります。
アフォーダンスと呼ばれる特徴です。

私たちは、形の潜在的な性格によって意図にかかわらず誘導されるといいます。
例えば、平らな大地は、私たちに座ったり、歩いたりすることをアフォードしています。

あるいは、部屋の壁に設置されたノブは、そこがドアであり押したり引いたりして開けることをアフォードします。
普通は、私たちが自分の意思で走ったり歩いたり、あるいはドアを開けたり閉めたりすると考えるわけですが、アフォーダンスの議論では逆になります。

このことは、デザインの重要性を示唆しています。
具体的な形の存在や、あるいは形を与えるということは、その製品の使い方や意味をその製品自体が情報として発信し、顧客を誘導しているということになるからです。

近年ホンダが発売した家庭用ガスパワー発電機「エネポ」は、デザインという意味でもよくできた製品です。

カセットガスを利用して発電できるエネポは、ハイキングやキャンプ、あるいは日曜大工での利用を想定して開発されたといいます。

しかし、発電機自体は、今のところそれほど一般的な商材ではありません。
使い方もわかりにくいものです。

そこで、ホンダは、例えば灯油のポリタンクのフォルムを真似ることで自宅での保管位置を提案し、また空気清浄機やヒーターなどの雰囲気を出すことで馴染みやすさにつながるように配慮したといいます。
さらには直感的に利用しやすいインターフェイスを用意するなど、具体的な利用方法についてもデザインの検討を行いました。

こうして優れたデザインは、私たちをアフォードしながら製品の価値を提案します。
それは、感性的にただ美しいというだけではなく、実質的な利用方法を規定することにもなるわけです。

当然、デザインにこだわることによって、強いブランディングも可能になります。
むしろ、こうしたデザイン性は、ブランドの要素として大きな強みになっていくはずです。

考えてみると、強いブランドの多くは、優れたデザイン力を持っているように思います。
アップルはその典型でしょう。

さらにいえば、デザインはブランドの対極としても考えることができます。
ブランドは名前であり意味の体系でした。
それは、見えざる資産です。

これに対して、デザインは、形であり具体的な利用方法を規定します。
それは、目に見ることができ、具体的に触れることによって発揮される資産だといえます。

デザインを考えつつ、ブランドを考えるというスタンスが、マーケティングにとっては重要となります。
デザインとブランドが、両輪になっているというイメージですね。




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